「東方人哀篇 ~ Uncreatable Idea.」設定資料集

設定資料集

「東方人哀篇 ~ Uncreatable Idea.」設定資料集

はじめに

この記事は東方原作STG風シナリオ付き東方風自作曲アルバム「東方人哀篇 ~ Uncreatable Idea.」の作品テーマや各キャラクターの元ネタ・名前の由来・デザインの意図・設定画などをまとめた設定資料です。

この設定資料集は旧サークルHPに掲載されていた設定資料集の再掲です。
また、このブログで「カテゴリ:東方人哀篇」の複数記事として分散していたものを、一つの記事にまとめ直したものになります(複数記事に分かれてると見づらいだろうなと思ったので…)

イラスト担当の林檎ノスケさんが描いてくれた設定画(not神主風)も掲載されていますよ。
動画本編を見ていない方には恐ろしいネタバレになります。まずそちらをご覧になってからお読みくださいませ。

作品全体のテーマ

非常に「西洋感」の強い東方風シナリオを作ろうとした時、最初に浮かんだ主題が「錬金術」でした。「錬金術」→「化学」→「科学」→「(西洋的な)人間による科学を用いた自然の征服」という連想ゲームをしています。つまるところ外の世界のそれによく似た科学的発想と科学的技術が幻想郷に持ち込まれてしまったらどうなるか?というお話でした。東方として非常に危険なネタを扱ったと若干反省しています(ほんとか?)
幸い(?)4-5ボスの幻想郷認識は完全ではありませんでしたし、新世界の神として創り出したホムンクルスも完全ではありませんでした。何をやっても100%うまくいくとは限らないのが人間ですので、こんな大それたことをしようとすれば頓挫するのも自然でしょう。100%の完全を持つのは神か妖怪だけです。
そういうわけで、いくら技術上は神や妖怪に近づいても、結局完全には至れない、そんな人の哀しみを描いた一篇が「東方人哀篇」というお話なのでした。

キャラクターデザインについて

東方人哀篇ではキャラクターのビジュアルを作るにあたり、まず原案者のわたしことBurnyuho(うづきねい)がおおまかなデザインのアタリをつけたラフを用意し、それを元に立ち絵担当さんこと林檎ノスケさんが神主風絵を起こす、という流れを取りました。
なので、原案時点で存在していた要素と、立ち絵担当さんによって追加された要素が混在しています。
原案者だけでは発想できなかった素敵な要素も色々入れて頂きました。この場を借りて林檎ノスケさんに御礼申し上げます。

二次設定的要素(?)について

また、この設定テキストでは、本編内で語るのはあまり適切ではないけれど、製作者的にうっすらとイメージがある二次設定的な要素(キャラの外見年齢とかプロポーションとか)についても言及しています。万が一イメージを壊されたくない方がいらっしゃいましたら適当に読み飛ばしてください。
また、仮に三次創作等をされる場合、必ずしもこの制作者的二次設定には従わなくていいです。ご自分のイメージを大切にしてください。

話のついでですが、東方人哀篇の三次創作は全面的にOKです。
ただしGuidelinesのページに記載されている作品使用ガイドラインをよく読み、それに従って三次創作を行ってください。

1面ボス「菜栖 かの子」
名前

菜栖なす かの

元ネタと名前の由来

そのままマンドラゴラ(マンドレイク)です。某魔法学校のお話とかでご存知の方も多い、あの植物の伝承が元になっています。
今回は「錬金術の素材としても使われた」という点に着目して取り上げました。
ご指摘の方もいらっしゃいましたが、名前の由来は「ナス科の子」です。決して某シナリオライターさんは関係ありません。ほんとに。

デザイン上のアレコレ

実在の植物としてのマンドレイクを意識したカラーリングです。
また、伝承上のマンドレイクは一般的に髪が葉っぱで顔から下が根っこの人間型として扱われるので、そのつもりで配色しました。
おおむね原案そのままのデザインですが、キャミソール的な肩紐がついたのは立ち絵担当さんのアドリブに拠ります。GJ。

制作者的二次設定

外見年齢15歳程度。案外高身長で出るとこ出てるプロポーションなイメージでした。
人哀篇キャラではメルシナの次にお姉さんです。

2面ボス「セオフィリア・シナバー」
名前

セオフィリア・シナバー

元ネタと名前の由来

元ネタは英国の妖精、レッドキャップです。
あまりメジャーな存在ではありませんが、能力にもある通り非常に危険性の高い妖精です。ちなみに、わたしはこの妖精も某魔法学校のお話を通して知りました。
本来の伝承では妖精ですが、東方的に「妖精」という種族は異なる意味合いを持つので、セオフィリアは妖怪扱いとしました。
2面では展開上、種族的な凶暴性をあまり前に出すことができないため、「帽子に関連する英国のファンタジー」つながりで『不思議の国のアリス』の帽子屋のモチーフを強く入れています。
名前の由来も帽子屋寄りで、帽子屋の元ネタになったと言われるセオフィラス・カーターを名前の由来に持ちます。帽子屋が「狂っている」というキャラ付けをされる由来となった、帽子の製造過程で使われる水銀、あるいは辰砂(Cinnabar)も名字の由来です。辰砂は赤色で、水銀の鉱石鉱物であり、また「賢者の石」という別名も持ちます。ゆえに後半の錬金術関連のネタと繋げることを意識して採用しました。
セオフィラスの女性名だと思って「セオフィリア」と名付けたら、「神様フェチ」という意味合いの言葉になってしまったのは内緒です(セオフィラスの女性名はセオフィラでした。失敗)。

デザイン上のアレコレ

中性的+胡散臭い+常に閉じ目+英国といえば紳士、という特徴をつけて原案をデザインしました。原作に居そうで居ないタイプの胡散臭さを狙っています。
値札の付いた帽子や蝶ネクタイ・腕時計・杖は帽子屋側を元ネタに持つアイテムですが、鉄製の長靴はレッドキャップ側を元ネタに持つアイテムです。

制作者的二次設定

外見年齢13-14歳前後。かの子よりは小柄ですが、4-6ボスよりは高身長です。プロポーションも若干控え目ですが悪くはありません。何がとは言いませんがやや小ぶりながら美しいサイズをしています。

3面ボス「メルシナ・ブリタニー」
名前

メルシナ・ブリタニー

元ネタと名前の由来

元ネタはそのままフランスの水妖、メリュジーヌです。メルシナは英語風の言い方です。名字のブリタニーは、伝承上メリュジーヌを娶ったとも言われるブルターニュ伯に由来します(やっぱり英語読みです)。
こちらもマンドラゴラ同様有名な妖怪ではありますが、単純な蛇女の印象だけではなく、ウロボロス(無限を象徴する蛇)のイメージを入れています。ウロボロスは錬金術の上でも扱われるモチーフですし、そもそも蛇自体が水銀を意味する象徴ともされます。錬金術以外の西洋思想でも、蛇は無限や永遠を表す生物として扱われることが多いです。
そんなわけで、メルシナはただの蛇女にとどまらない、実は非常に格の高い妖怪のつもりで描きました。服従の首輪と不可視の鎖さえなければ、もっと強力でカリスマ感のある妖怪だったでしょう。
メイドさんのコスプレをさせられているのは、近縁種として扱われることのあるドラゴンメイドという妖怪に引っ掛けたダジャレです。メリュジーヌも蛇女と呼ばれはしますが、ドラゴンに近いニュアンスをもって語られることがあるようです。

デザイン上のアレコレ

3ボスにしては強敵感のある雰囲気にしつつメイドさんのコスプレ、というデザインです。原案の時点ではメイド服のデザインが適当だったので、細部は立ち絵担当さんに投げました。素敵にクラシカルなメイド服を描いて頂いたと思います。
持っている杖にも何か意味があったはずなんですが、原案者が元ネタを失念しました。アスクレピオスの杖とかイメージしてたんだっけ?

制作者的二次設定

外見年齢は10代後半。東方二次創作的にはもっと上の可能性もあります。人哀篇でもっとも外見年齢が高く、もっとも高身長で、もっともグラマラスなキャラ(というイメージ)です。
メイドさんのコスプレをさせられているので、もちろんこの格好は本来の格好ではありません。本来はもっとカリスマな感じなはずです。
決して好戦的な性格ではありません。本編のような理由がなければ、池に近寄る人間をびっくりさせることこそあるでしょうが、巫女相手に勝負を仕掛けてくることはあんまり無いと思います。

4面ボス「華美野・A・碧子」
名前

華美野かびの・アレクサンドリア・碧子へきこ

元ネタと名前の由来

自分で考えておいてナンですが、非常に元ネタのわかりづらいキャラになったと反省しています。種族こそ人間ですが、抗生物質もしくは抗菌剤を元ネタとしたキャラです。デザインとネーミングの直接のモチーフは抗生物質の代表格ペニシリンと、その元となるアオカビです。
華美野はカビと引っ掛けたダジャレで、碧子はペニシリンが日本語で碧素と呼ばれることに由来します。ミドルネームのアレクサンドリアはペニシリンの発見者、アレクサンダー・フレミング博士から頂きました。
抗生物質や抗菌剤はそれまで猛威を振るっていた感染症から人間を救った革新的な薬品であり、特効薬を意味する「魔法の弾丸」という言葉で形容されることもあります。人哀篇の物語を考えるにあたって、抗生物質や抗菌剤によって駆逐された旧来の感染症は、「長きにわたって人間を怯えさせてきた得体の知れないもの」つまり東方における妖怪に通じる存在ではないかと考えました。ゆえに、碧子の撃つ化学的な「魔法の弾丸」は妖怪に対して特効薬となるのです。
全体として「科学によって妖怪を幻想として否定できるようになってしまった、外の世界に近い価値観を持つ人間の象徴」としてキャラクターを造形しました。その割に色々な認識が甘いのは人間なので仕方ありません。

デザイン上のアレコレ

髪型はそのまんまアオカビを模しています。また、化学的なものを元ネタに持つキャラということで、衣装に多用される六角形は化学構造式でよく出てくるベンゼン環をイメージしました。ペニシリンにベンゼン環は無いですって? うぐぐ。
右手に持っているのが魔弾の銃、左手に持っているのが不可視の鎖です。不可視の鎖もベンゼン環(というか化学構造式=化学物質)がモチーフになっています。もっともろに化学構造式っぽいものを鎖状に連ねようと思いましたが無理がありました。
銃使いで西部劇のガンマンっぽい衣装なのは「魔法の弾丸」との引っ掛けです。原案時点ではベルトなどの六角形モチーフは無く、立ち絵担当さんに追加して頂きました。

制作者的二次設定

外見年齢・実年齢共に10歳に乗るか乗らないかです。むろん、ビジュアル的には人哀篇最年少になります。
弾幕ごっこにも幻想郷的な美学のあるやりとりにも慣れていません。霊夢に煽られて容易に逆ギレする辺り青二才だと思います。
人間の里出身者なので、里に居たころはたぶん和服を着ていたんだと思います。
制作中に名前を決めるのに難儀したので、制作陣の中では「青黴ちゃん」の通称で通っています。名前で呼ぶのに慣れないです。

5面ボス「フィリパ・A・T・B・ホーエンハイム」
名前

フィリパ・アウレローラ・セオフィラスティア・ボンバスチア・フォン・ホーエンハイム

元ネタと名前の由来

名前と設定を見れば一目瞭然な元ネタのキャラだと思います。医科学の祖と呼ばれる医師にして、錬金術師でもあった人物、パラケルススが元ネタです。フルネームは後世においてパラケルススの本名と呼ばれた名前を無理矢理女性名にしたものです。
あまりにも元ネタがわかりやすいので言うまでも無いかもしれませんが、彼女が錬金術の素材として用いる「硫黄・水銀・塩」はパラケルススが万物を生み出す根源となる三元素として重要視した物質です。パラケルススは硫黄と水銀を塩で繋ぎ合わせることで、この世の万物が創られるとしていました。
フィリパはパラケルスス本人とは違って、創造主を自称する非常に思い上がりの激しいキャラです。そのため、イデアをモチーフにした6面ボスと関連付ける意味も込めて、「デミウルゴス(もしくはヤルダバオト)」もモチーフのひとつにしています。プラトンの『ティマイオス』や後のグノーシス主義などで、「完全な世界(イデア界)の模倣としての、不完全なこの世を創造した創造神」として語られる存在です。

デザイン上のアレコレ

凄く奇抜なビジュアルのキャラですが、このビジュアルも三元素をモチーフにしています。黄色(硫黄)と水色(水銀)のアシンメトリーな意匠を、白(塩)が結びつけるというイメージでデザインしました。
変な帽子と付けシッポも硫黄と水銀の暗喩です。錬金術において硫黄はライオン、水銀は蛇でしばしば象徴されるため、ライオンの帽子(硫黄)とヘビのシッポ(水銀)をフィリパ自身(塩)で繋ぎ合わせたデザインになっています。ただ、東方だし少女なのでライオンにたてがみはありません。
持っているのはいわゆるアゾット剣です。杖として伝承されることもあるため、杖とも鞘に納めた剣ともとれる形状にしました。救急箱がくっついているのは、パラケルススがアゾット剣から薬を取り出して困っている人に授けた、という伝説に由来します。
奇抜な衣装やアクセサリーを取ってしまえば、本人のビジュアル自体は地味です。

制作者的二次設定

外見年齢は10代前半です。絶望的とまでは言いませんが貧相なプロポーションです。
東方原作に居そうで居ない、アヒル口キャラを試みました。腹立つ表情です。
テンプレ的マッドサイエンティストを意識したキャラ造形にしています。子ども向けアニメで毎週主人公に倒されてはお空の星になるような悪役です。
帽子や付けシッポで着飾るのは、妖怪への対抗意識というか、必死で人間である自分を妖怪と釣り合う強者に見せようとしている、というイメージでした。基本的に発想が小物です。
彼女が作品世界におけるパラケルスス本人なのか、そうではないのかについてはご想像にお任せします。Bombastia=Bombastus=誇大妄想狂、と考えると、ただの思い上がった別人の可能性も大いにあるんだなあ。
どういうわけか制作中にしょうもないネタが生えまくったキャラでもあります。「白衣の下にインナー着てるんだろうな?」とか。

6面ボス「日出あい」
名前

日出ひのいで あい

元ネタと名前の由来

またしても元ネタのわかりにくいキャラですみません。プラトンや彼の流れを汲む西洋哲学において、中核として語られる「イデア」という概念がモチーフのキャラです。イデアとはおおむね「肉眼では見えないあらゆるものの純粋で完全な真の形」「〇〇というものそのもの」くらいの意味です。
パラケルススがホムンクルスを創り出したという伝承があること、そしてホムンクルスはあらゆる知識を持っていて、時として創造主にそれを授ける……と言われることから着想しました。イデアと繋げたのは「あらゆる知識を持っている」→「完全である」っていう連想と、パラケルススの思想が微妙に新プラトン主義の系統にあることに由来します。こじつけっぽいですが。
西洋において(キリスト教の三位一体と関連させる形で)「3」が完全な数として扱われることがしばしばあることや、パラケルススの三元素の存在、さらにイデアの説明をする上で多用される比喩に「三角形のイデア」があることなどから、三角形を彼女および人哀篇全体のメインモチーフとしました。曲が三拍子でBPM163なのもそういう理由です。
「金髪なのに着物」「女性口調なのに一人称が僕」といった特徴は、「洋の東西や男女を超越した、人間という存在の純粋で完全な形そのものである」というイメージと、「統一感がなくちぐはぐで変で不完全な形である」というイメージの、どちらの印象でも取れるように描きました。
名前は「ひの イデア い」というダジャレです。いちおう「(プラトン哲学的な)愛」「(人間には完全が創れないという)哀」「(人間によって創られた疑似生命体、すなわち)AI」という意味合いも込めていますし、「洞窟の比喩」を若干意識しているかもしれません。

デザイン上のアレコレ

前述の通り、折衷的ともちぐはぐともとれるデザインにしています。4-5ボスのデザインのゴテゴテ奇抜度合いが高いので、グッと抑えてシンプルな造形にしました。
纏っているオーラと持っているハートは立ち絵担当さんの発想に拠るものです。ハートの色変化や、ハイライトの無い目、敢えて表情差分にエフェクトを付けないことなどは、すべて原案時点では存在しない要素で、立ち絵担当さんの粋な演出です。
オーラを取ると、全体のシルエットが三角形に見えなくもないかもしれません。

制作者的二次設定

外見年齢は10代前半です。実年齢は「霊夢の目の前でさっき生まれたばかり」なので10分くらいです。顔立ちは美人さんのつもりですが、本編で言及される通り体格もプロポーションも非常に貧相というか不健康です。肋骨の目立つまな板のつもりです。

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