「東方風音色 ~ Canvas of Music-colored Winds.」に仕込んだネタまとめ
はじめに
この怪文書は、ニコニコとYouTubeに投稿している、東方Project二次創作動画にして東方風自作曲合作アルバム動画「東方風音色 ~ Canvas of Music-colored Winds.」(以下「東方かざねいろ」)に関する、主にシナリオ面の制作裏話とか、そういうものを語っている記事になります。
まずは動画を見ないと何を言っていることやらになると思うので、怪文書を読まれる前に、よろしければ各投稿サイトにて動画をご覧ください。
この記事には基本的に「東方Project」あるいは「東方風自作曲」という音楽ジャンルに対する、独自解釈と妄想しか書かれていません。
解釈違いだなって思ったらすみません。わたしにはこう見えたのでご容赦ください。
また、この独自解釈と妄想は、あくまで「東方かざねいろ」の企画・主催とシナリオ・弾幕スクリプトを担当した管理人のわたし、Burnyuho(うづきねい)個人の考えになります。
企画のゲスト参加者の方々を含めた総意ではないことをご留意ください。
あなたが動画を見て自分で深読み妄想したいタイプの視聴者だった場合、この記事はモロに「作者側の意図の開示」になってしまい、大いに妄想の楽しさを削ぐ可能性があります。ご注意ください。
「東方かざねいろ」には題材の都合上、DTM(デスクトップミュージック/パソコンを使った音楽制作)の知識をある程度持つ方にしか通じないネタがいくつも仕込まれています。
この記事ではDTMについてご存じない方であっても元ネタが分かるよう、できるだけ嚙み砕いて解説していくつもりですが、どうしても難解な部分が出てくると思います。その点、ご了承ください。
逆に、ちゃんとしたDTMの知識がある方から見ればトンチキ言っている部分も出てくると思います。そちらもご承知おきください。
作品全体のテーマと合作企画始動の経緯
動画の一番最後の部分でも述べたように、「東方かざねいろ」という合作アルバムは、それ自体が「ZUN氏の楽曲で使用されたことのある音色」(以下「神主音色」)を題材にしています。
ここでいう音色とは、DTMにおいて生楽器の代わりに音を鳴らすために用いられる、さまざまなハードウェア機材もしくはソフトウェア機材(「音源」と呼びます)に内蔵された、楽器音の種類のひとつひとつを指します。
例えば、東方原曲において「ZUNペット」として有名なトランペットの音色は、多くの場合「SD-90」という音源に内蔵された「Romantic Tp」という音色のことです。
SD-90は見た目としてはこんな感じのハードウェア機材。
(写真はゲスト作曲者のポーさんより頂きました。感謝)
各種ケーブルや他の機材を使ってパソコンと接続し、MIDI(コンピュータ上で音を鳴らすために使う楽譜データ的なもの)を送ることで音を鳴らします。
言うまでもないと思いますが、Romantic Tpはこんな音。
いわゆる「ZUNペット」ですね。
なお、東方原曲のトランペットは、厳密には必ずしもRomantic Tpを使っているとは限りません。Loose LipsやMariachi Tpなど、別の音色を使っている場合も散見されます。
東方原曲や東方風自作曲は、もっとも有名な神主音源であるSD-90をはじめとして、さまざまな音源に内蔵された音色を組み合わせて作られています。
「東方かざねいろ」という合作アルバム企画が生まれた理由は、非常にシンプルです。
「もしSD-90に内蔵された音色を、幻想郷の少女として擬人化して東方原作STG風のシナリオを作るなら、ラスボスはD.L.A.Pad(という音色の擬人化)がいいなあ」
そんな妄想を、仲良しの東方風作曲者の方々と雑談している時、わたしがボソッと呟いたのが全ての始まりでした。
さまざまな東方風作曲者の方から「それは面白い」とか「もし6ボス以外のボスがいるならこんな音色を擬人化してもいいんじゃないか」とか、そんな反応を頂きまして……
いっそのこと合同企画を立ち上げて、各作曲者の「推し神主音色」を持ち寄って、それを題材にして曲を書いたら面白いんじゃないか。
そういう話の流れになったわけです。
ありがたいことに、少なくない数の東方風作曲者の方が参加表明してくださいましたので、まずは各作曲者に「推し神主音色」を挙げてもらうことにしました。
しかしながら、神主音色といってもさまざまな種類があります。
比較的昔の作品(星蓮船以前など)の東方原曲と、最近の作品(天空璋以降など)の東方原曲では、そもそも使われている音源自体が大きく異なる場合も多いです。
音源が違えば、それに内蔵されている音色の「音の方向性」も異なります。
全ての時期の神主音源から「推し神主音色」を募ったのでは、アルバム全体の作風の統一性を欠く可能性があります。
そのため、この企画で参加者に持ち寄ってもらう「推し神主音色」は、SD-90という音源に収録されている音色に限定しました。
同時に、各参加者に「推し神主音色」を題材にして作って頂く曲も「SD-90に内蔵されている音色のみ使って」作って頂くことにしました。
(なお、SD-90と全く同じ音色が内蔵されているSD-80もOKということにしました)
SD-90はRomantic Tpが収録されていることからもわかるように、東方原曲や東方風自作曲の世界では知らない者のいない神主音源です。
収録されている音色も幅広く、東方紅魔郷や蓬莱人形の楽曲に至っては、ほぼこの音源の音色のみを使って制作されていると思われます。
SD-90限定で曲を作るとアルバム全体の作風が紅魔郷に寄ることは容易に想像できたため、この段階でシナリオや動画の演出も思いっきり紅魔郷に似せることに決めました。
また、同時に立ち絵などのイラストは(ゲスト作曲者のひとりでもある)古明地かなでさんにお願いすることになりました。
同氏にも「思いっきり紅魔郷の画風に寄せたイラストでお願いします」と依頼しています。
シナリオ執筆にあたり、タイトル曲と1~5面の楽曲を担当して頂くことになった参加者の方には、「SD-90の推し神主音色は何ですか?」という質問と併せ、「それが擬人化されたらどういう幻想少女になると思います?」という質問をしました。
その回答として挙がった推し神主音色の顔ぶれ(?)を見て、わたしが「この顔ぶれでこういう話なら東方原作STG風シナリオとして辻褄が合うはずだ」という物語を考え、書き下ろしたというわけです。
(6面がわたしの担当するD.L.A.Padを題材にした曲とキャラになるというのは、この時点であらかじめ決めていました)
また、このくらいの段階で主人公がメルランになることも既に決まっていたように思います。
ところで、ファンメイドの東方風自作曲には、少なからず「神主が実際には使用していない音源と音色を使っている」楽曲が存在します。
「完全に神主音源を使わない」制作環境で東方風自作曲を作っている著名な作曲者として、わたしの中で真っ先に名前が挙がったのが或兎さんでした。
これは個人的な持論ですが、わたしは「東方風自作曲」という音楽ジャンルは、必ずしも「ZUN氏と全く同じ音源や音色で音楽を作ることを意味しない」と思っています。
そんな角度の話を盛り込むため、「東方かざねいろ」では「1~6面の楽曲と物語はSD-90内蔵音色を題材にしつつ」「EX面のみ非神主音源・非神主音色を題材にする」ことにしました。
なので、或兎さんには最初から「EX面の曲を『同氏がいつも使っている非神主音源』SGM-V2.01で作って欲しいです」とお願いしました。
SD-90という代表的な神主音源を題材にした物語を語った後に「神主音源の使われていない東方風自作曲をも肯定したい」と思ったのです。
「東方かざねいろ」において、シナリオ担当としては「各作曲者の好きな神主音色」という題材からさらに範囲を広げ、「東方風自作曲」という音楽ジャンルをも題材にするような物語を執筆したつもりです。
「東方風自作曲」という音楽ジャンルは、ZUN氏の作風の再現を大きな目標とするようでいて、その実、作曲者ごとに作風が少しずつ異なっており、実に多様な作風と思想のもとに展開されています。
7名のゲスト作曲者を迎えて東方風自作曲のアルバムを作るにあたり、わたしはその「作曲者ごとの多様性」も尊重したいと考えました。
詳しくは後ほど述べますが、「東方かざねいろ」のシナリオでは奇しくも「色」が重要なキーワードとなりました。
多様性尊重が叫ばれるようになった現代において、さまざまな色から構成される虹は、たびたび多様性の象徴とされます。
ゆえに、「東方かざねいろ」では、動画演出において「虹」に大きな意味を持たせました。
スタッフロール曲に「キャンバスに描く虹色の風 ~ Touhou-style Dream…」というタイトルをつけたのにも、「東方風自作曲という音楽ジャンル自体が、さまざまな作曲者の多様性を尊重する世界として発展していってほしい」という願いを込めています。
アルバムのタイトルについて
「東方風音色 ~ Canvas of Music-colored Winds.」というタイトルにも、色々と意味を込めました。
動画のシナリオからも分かると思いますが、メインタイトルは「東方の『風の』音色」という意味と「『東方風の』音色」という二つの意味を引っ掛けています。
確か企画が始動した段階で「『東方風の』音色」という出オチ的なタイトルをつけることを決めたのち、「『風の』音色」とも読めることを利用して、作中に登場する音色の擬人化たちを「風と音と色の妖怪」と位置付けていくことにしたと思います。
さらに言えば、「音色」も音色(DTM的な「おんしょく」instrument)と音色(一般的な単語としての「ねいろ」tone color)と色(color)の引っ掛けですね。
日本語でなければ通じない言葉遊びですが、この言葉遊びを無理矢理英語で解釈できるようにする意味を込めて、サブタイトルはCanvas of Music-colored Winds.としました。
Canvasという単語は「さまざまな色を描き出すもの」という意味と同時に、SD-90の正式名称「STUDIO Canvas SD-90」も意識したつもりです。
キャプション画面について
ここからは動画のスクショも交えながら、仕込んだネタを解説していくことにします。
まず、キャプション画面は「青い紅魔郷」とでも言えるようなデザインにしました。
背景はよく見ると6面背景と同じ水面です。
画面中央の帯の部分に規則的に四角形が並んでいますが、これは「ピアノロール」という、DTMで使う音楽制作ソフト上でMIDI(コンピュータ上で音を鳴らすために使う楽譜データ的なもの)を作る時に一般的な音符の入力方法を示しています。
ちなみに、この画面と同じ配置でピアノロールに音符を置き、音源を通して鳴らすと、このような旋律が再生されます。
東方原曲を知っている方ならお馴染みのフレーズですね。
各作品のタイトル曲などで多用される、いわゆる「東方のいつものアレ」です。
一番最初に(全文読ませるつもりのない表示時間で)英文が表示されますが、これは紅魔郷の起動画面の英文を意識しつつ、わたしの「東方風自作曲という音楽ジャンルへの願望」的なものを書きました(Google翻訳に頼ってますけど)。
以下、日本語訳です。
この動画は「東方風自作曲」の二次創作コンピレーションアルバムです。
東方風音色 ~ Canvas of Music-colored Winds.
東方の風に正解はありません。すなわち、すべてが正解であるべきです。
幻想郷と呼ばれる”studio-canvas”に、さまざまな色の風を響かせましょう。
タイトル画面と主人公について
メインビジュアルの画面構成は、全面的にイラスト担当の古明地かなでさんにお願いしました。
タイトルに限らず、イラストやキャラクターデザインに関係する裏話は、古明地かなでさんがpixivに掲載した設定資料集のほうで解説されていますので、よろしければそちらを覗いてみてください!
動画制作担当わたしのほうでは、軽く題字や演出を追加した程度です。
題字などのデザインは言うまでもなく紅魔郷を意識しました。
(使っているフォントは違うのでパチモン感ありますが)
難易度選択画面、自機選択画面も相当露骨に紅魔郷リスペクトです。
「東方かざねいろ」では主人公が(霊夢や魔理沙といったポピュラーどころではなく)まさかのメルラン・プリズムリバーですが、これも東方風自作曲が題材になっているからこその理由があります。
東方原作や東方風自作曲において、もっとも有名で代表的な神主音色とは何でしょうか?
言うまでもなく、ZUNペットことRomantic Tpです。
そして、東方キャラにおいてトランペッターといえば、メルランです。
「東方かざねいろ」のシナリオを執筆するにあたっては、メルランとRomantic Tpを強く関連付けるようにしています。
設定上異なることは承知の上ですが、メルランに「Romantic Tpの擬人化」という意味合いも与えるような、そんなイメージで物語を書きました。
ゆえに、彼女の装備の名前は「ハードビブラートウェーブ」と「ロマンティックトランペット」なのです。
ZUNペットといえば強いビブラートのかかった音、つまり「ハードビブラートウェーブ」が特徴ですよね!
1面について
1面のロケーションは「地縛霊の多い塚」です。
メルランのライブの場所としては鉄板ですね。まずはここから。
STG画面風の画面UIは「黒い紅魔郷」とでも呼べるような構成にしました。
ハイスコアやスコアなどがあるべき場所にまともな数値は入っていません。
DTM的なネタに終始しています。
最高音色数1050 | SD-90の内蔵する音色の数 |
音色数128 | SD-90の最大同時発音数(同時に鳴らせる音色の数) |
LSB/MSB/PC(Program Change)は、それぞれSD-90を使って音を鳴らす時に、音色を指定するために音楽制作ソフトから機材に送る数値の名前です。
画面上の表示は「各面ボスとして擬人化されている神主音色を鳴らすためにSD-90に送信するのと同じ値」になっています。
なお、STG枠内の動く3D背景は、わたしの過去作(Re:東方遺物館/東方雨超天など)と同様に東方弾幕風ph3で作っています。
1面に限らず、各ステージについては「面を担当する各参加者から推し神主音色を聞く→推し神主音色を擬人化する→キャラクターにふさわしい物語とロケーションを考える」という順番でシナリオを書いていったように思います。
1面ボス、オクタヴィア・J・シアン(Octavia Jasper Cyan)です。
キャラクターデザインは古明地かなでさんです。
SD-90に内蔵されている神主音色「Oct.JP Saw」の擬人化です。
Oct.JP Sawは東方原曲で用いられるシンセリード音色のひとつです。
シンセリードとは「いかにもシンセサイザーって感じの電子音」だと思ってくれていいです。
Oct.JP Saw、実際に鳴らすとこんな音。
Oct.JP Sawのような感じの音のシンセリードはソウトゥースリード(Sawtooth Lead)と呼ばれています。
日本語にすると「鋸歯波」とか「ノコギリ波」。
三角形にギザギザした音の波形が特徴のシンセリードです。
Oct.JP Sawはまろやかで優しい音色が特徴で、主に初期~中期のWin版東方原曲で使われていました。
個人的には妖々夢各曲や、神霊廟の「デザイアドライブ」のサビで印象深い音色です。
Oct.JP Sawに限りませんが、SD-90の音色は「ボイス」という単位のもとに構成されています。
ここでいう「ボイス」とは音の特定の波形のことです。
たとえば「3ボイスの音色」と言った時、それは「3つの異なる波形を同時に鳴らすことで出来上がる音色」という意味になります。
オクタヴィアが言う通り、Oct.JP Sawは3つの波形を同時に鳴らしてできる、3ボイスの音色なのです。
鋸歯波「柔和で円やかなシアンの音色」
前述の通りOct.JP Sawは「鋸歯波」なので、弾幕で三角形にギザギザした波形を表現しました。
ポイフル弾が3色3wayなのは「3ボイス」だからです。
ちなみに、1~6面ボスのスペカ背景は全て共通のデザインになっています。
動画冒頭のキャプション画面と同じ音型のピアノロールが流れていますよ。
撃破時のボーナススコア値は、各面ボスとして擬人化されている神主音色に応じて「PC&LSB&MSB&ボイス数」の数を並べた値になっています。
1面の場合「PC:82」「LSB:0」「MSB:98」「ボイス数:3」というわけです。
「ポリフォニック」とは、音楽機材の音色の中でも「同時に複数の音が鳴らせる音色」のことを指します(同時に複数の音が鳴らせないものは「モノフォニック」と言います)
メルランの言う通り(?)Romantic Tpはポリフォニックの音色です。
ここの台詞は「サイコ」と「さ、行こっと」を引っ掛けた激ウマギャグ、だったりして……
2面について
2面のロケーションは「無名の丘」です。
しかし割り切った背景色ですね。
メディスンが目をチカチカさせているんじゃないでしょうか。
2面ボス、黄金音はじきです。
キャラクターデザインは2面楽曲担当でもある風雲さんです。
SD-90に内蔵されている神主音色「St.Harpsichd」の擬人化です。
St.Harpsichdは東方原曲で用いられるハープシコード音色です。
ハープシコードはチェンバロともいい、古くはピアノの原型にもなった、内部で弦をはじいて音を出す鍵盤楽器です。
実際の楽器のサイズ感はグランドピアノと同等くらいでしょうか。
その音をSD-90上で波形として再現したものがSt.Harpsichdという音色です。
わたし思うに、St.Harpsichdははっきりした存在感のある音が特徴の音色だと思います。
使用される曲は初期~中期の東方原曲を中心に多岐にわたり、比較的最近の東方原曲でも使用される印象があるオールラウンダーです。
個人的には輝針城4面「マジカルストーム」のイントロの高速発狂が印象深いでしょうか。
実際の生楽器のチェンバロは、構造上あまり速いフレーズを演奏することができないそうです。
でも、SD-90のSt.Harpsichdはあくまで「波形として再現したもの」なので、演奏しようと思えば生楽器ではできないような高速発狂も演奏できます。
実際、東方原曲におけるSt.Harpsichdはピアノに次いで、しばしば「発狂パート要員」になりがちだと思います。
大鍵琴「強固で存在感あるイエローの音色」
大鍵琴とはチェンバロのことです。
「はっきりと存在感はあるが長く伸びることのない音色」が高速で演奏される様子を弾幕にしました。
3面について
3面でいよいよ敵の本拠地(?)スタジオ・キャンバス社の入り口に辿り着きます。
「天空に浮かぶ音源モジュール」が本社だと言及されますが、わたしの脳内では巨大なSD-90(機材)が逆さ城よろしく幻想郷上空に浮かんでいるイメージでした。
3面ボス、唐紅音もぐりです。
キャラクターデザインは古明地かなでさんです。
SD-90に内蔵されている神主音色「MG Saw Lead」の擬人化です。
3面楽曲担当のN4さんに溺愛されていることで有名な娘です
Saw Leadという単語が入ることから察すると思いますが、MG Saw Leadも1面のOct.JP Sawと同じように、Sawtooth Leadの仲間……つまりノコギリみたいな三角形のギザギザ波形が特徴のシンセリード音色です。
一方で、MG Saw Leadは東方原曲では出現率の高い音色ではありません。
お恥ずかしながらわたしは神主音色として認知してなかった
黄昏酒場3ボス曲「呑んべぇのレムリア」の使用例が一番有名でしょうか。
「東方原曲で頻出する音色ではない」ことを「警備員として本社に張り付いているので外回りの仕事をしていない」という設定と「もぐり」という名前として表現しました。
「オシレーター」はシンセサイザーにおいて音を発生させる仕組みのひとつのことです。押し入れ板
ちなみに、もぐりちゃんの帽子についているマークは、スタジオ・キャンバス社の社章です。
デザインしたのは古明地かなでさん。
SD-90を会社として表現したのがスタジオ・キャンバス社なので、「SD」というアルファベットを楽譜記号っぽく意匠化してもらいました。
真っ当に略すとSCなんだけどそうすると別の音源の略称になってしまう
この社章はSTG枠外のタイトルロゴや1~6面ボス(=スタジオ・キャンバス社社員)のスペカ背景などにも使われていますよ。
壁符「キャンバスファイアウォール」
3面担当のN4さんの強いご希望により生まれたスペカです。
愛されている……
でもこのファイアウォール穴だらけやんけ!まさにもぐりちゃんやな!
鋸歯波「鋭利で印象的なマゼンタの音色」
1面ボス(=Oct.JP Saw)のスペカの変形になっているのは、Oct.JP SawもMG Saw Leadも同じSawtooth Leadだからです。
1面同様、弾幕で三角形にギザギザした波形を表現しました。
ボロ絵のこの表情、個人的には旧作みを感じる……
「MIDIインターフェース」については、4面のロケーションでもあるので4面で詳しく解説しますね。
4面について
4面のロケーションは「MIDIインターフェース」です。
DTMをご存じない方には馴染みのない言葉だと思います。
SD-90のようなハードウェア音源をパソコンと繋げ、MIDI信号(コンピュータ上で音を鳴らすために使う楽譜データ的なもの)を送るために使う機材のことです。
わたしの使っている実際のMIDIインターフェース(Roland UM-ONE)はこんな感じ。
余裕で手のひらに収まる小さな機材です。
付属ケーブルの片側をPCのUSBポート、もう片側をSD-90などのハードウェア音源に差し込んで使います。
物語の中でSD-90が会社として表現されるなら、そのSD-90に演奏するための信号を送るMIDIインターフェースは「窓口」とか「受付」として表現できるのではないかと思いました。
ゆえに、4面ボスたちは受付嬢なんですね。
4面の背景に流れている16進数は、SD-90を使う時には欠かせない重要なMIDI信号として、実際にSD-90に送る値になっています。
実際の値は「F0 41 10 00 48 12 00 00 00 00 00 00 F7」
エクスクルーシブ入力と呼ばれるMIDI信号のうち、「SD-90 Native ON」と呼ばれるものです。
簡単に言うと「各神主音色を鳴らすことができるモード(Nativeモード)にするためにSD-90をセッティングしろ」というような意味合いです。
SD-90を使って東方風自作曲を作るなら、誰でも必ず一度は使う信号だと思います。
4面ボス、オベリア・S・レッド(Oberia Square Red)と青空音まざりです。
キャラクターデザインは4面楽曲担当の古明地かなでさんとこまいぬさんのお二人です。
SD-90に内蔵されている神主音色「OB Square」と「Hybrid Saw」の擬人化です。
OB Squareはスクエアリード(Square Lead)と呼ばれるシンセリードの一種です。
Sawtooth Leadが「ノコギリのように三角形にギザギザした波形のシンセリード」なら、Square Leadは「四角形にギザギザした波形のシンセリード」と言えます。
日本語では「矩形波」とも表現されます。
ピコピコ感の激しいシンセ音色です。
OB Squareは東方原曲における代表的なSquare Leadです。
個人的にはやはり初期~中期の使用例が多いように思います。
「ネクロファンタジアの盛り上がる部分の主旋律の音」と言えば、如何に有名で重大な存在か分かるでしょう。
一方、Hybrid Sawは1面と3面に続き、またしてもSawtooth Leadの一種です。
繰り返しになりますが、ノコギリみたいな三角形のギザギザ波形が特徴のシンセリード音色です。
個人的に、Hybrid Sawは東方原曲のSawtooth Leadの中では知名度?印象深さ?が高い方の音色だと思っています思っているだけかもしれない……
星蓮船2面ボス曲「万年置き傘にご注意を」の冒頭から入る主旋律の音と言えば、比較的すぐに通じると思います思っているだけかもしれない……
大空魔術「車椅子の未来宇宙」でほぼ全編にわたって主旋律をやっているのも印象的ですね。
この通り、OB SquareとHybrid Sawは、音色としては性質が全然違います。正直似てません。
そんな彼女たちが自称姉妹の二人組なのは、4面担当の古明地かなでさんの強いご希望によります。非常に良い
DTMにおいては、エクスクルーシブ入力などの「機材の状態の設定や初期化」に関係するMIDI信号は、曲の冒頭に無音区間(セットアップ小節)を設けてそこにまとめて入力する……という通例があります。
演奏している最中にこれらの信号を入力すると、音の鳴り方などに支障が出る場合があるためです。
この通例を「会社」的に表現するなら、訪問前のアポが近いと思ったので、こういう話になりました(?????
矩形波&鋸歯波「如何にも東方的なレッドとブルーのデュオ」
四角形にギザギザした波形と三角形にギザギザした波形を弾幕で表現しました。
ボスの配置は天空璋5面リスペクト(?)です。
「MIDI-IN」はSD-90にMIDIインターフェースを接続する端子、つまりはMIDI信号を入力するための端子のことです。
5面について
5面のロケーションは「スタジオ・キャンバス社上層階回廊」です。
わたしの脳内では「空に浮かぶ巨大なSD-90の前面についてるディスプレイの裏」という勝手なイメージがありました。
ディスプレイが地上を見下ろす大きな窓になってるイメージです。
5面ボス、リディア・R・グリーン(Reedia Romance Green)です。
キャラクターデザインは古明地かなでさんです。
SD-90に内蔵されている神主音色「Reed Romance」の擬人化です。
葉巻とコインを持っているのは、5面楽曲担当のあめんさんがReed Romanceを推し音色として挙げる時「葉巻と賭けコインのイメージがあるんですよね」と仰っていたのに由来します。
立場的にも「葉巻と賭けコイン」的にも女社長らしいキャラ付けが良いと思い、このようなキャラになりました。
だいぶ視聴者に愛されていて嬉しい。
Reed RomanceはZUNリードとも呼ばれる、SD-90の中で(おそらくは)Romantic Tpに次ぐ知名度を誇る神主音色です。
星蓮船以降、頻繫に主旋律に使われる、存在感のあるサックスのような音色ですね。
「小さな小さな賢将」のイントロが終わった後に出てくるのが一番分かりやすいでしょうか。
曲の冒頭付近から存在感がある使用例がとっさに思いつかなかったっていう
音色名のリード(Reed/簧)とは、リード楽器で音を鳴らすために使われる、薄くて小さな板のことです。
リード楽器とは、木管楽器(いわゆる「ふえの仲間」)の中でも、リードに息を吹き付けて音を鳴らすものを指します。クラリネット、サックス、オーボエ、ファゴットなどが該当します。
音を鳴らす原理をすごく雑に言うと「草笛」とか「ラーメン屋のチャルメラ」が近いです。
リードを1枚使って音を出す楽器(クラリネットやサックス)をシングルリード、2枚使って音を出す楽器(オーボエやファゴット)をダブルリードと呼びます。シングルとダブルで音の方向性がかなり異なります。
わたしの聞く限り、Reed Romanceは音の方向性的に「サックスっぽいシングルリードの音を再現したものじゃないかな」と思っています。
「リード」楽器を再現した音色であることと、社長っぽい振る舞いをする「リーダー」であることを引っ掛けて、リディアはこういう感じのキャラ付けになりました。
リディアがスタジオ・キャンバス社の復権を野望に掲げて行動しているのは、近年の東方原曲においてSD-90の使用頻度が低下する傾向にあること(=SD-90を主軸に作られる東方原曲や東方風自作曲が過去のものとなりつつあること)を表現しています。
簧楽器「浪漫的で簧の無いグリーンの音色」
Reed Romanceの「長く伸ばすと徐々に音量が大きくなる」「音を切ってもかなりゴージャスな響きが残る」という音色を弾幕で表現しました。
参加者の方から「拡散するマスタースパーク」って言われて笑い転げました。
シングルリードっぽい音だけど、実際のところそれっぽい音色を電子的に再現しているだけと思われるので、当然実際のリードは無いんだよなぁ。
6面について
6面のロケーションは「スタジオ・キャンバス社最深部」です。
音色の湧き出す大きな源泉として表現されているのは、SD-90が「ハードウェア『音源』」であることから発想しました。
この源泉からスタジオ・キャンバス社の音色たちが生まれてくるイメージです。
6面ボス、風音道楽(Kazane D.L.A.)です。
キャラクターデザインは古明地かなでさんです。
変なローマ字を当てていますが、下の名前は「どうら」と読みます。
SD-90に内蔵されている音色「D.L.A.Pad」の擬人化です。
D.L.A.Padはシンセパッドと呼ばれる音色です。
シンセパッドはだいたい「音を長く伸ばすことで曲の背景として賑やかしをするタイプの」シンセサイザー音色だと思って頂いて良いと思います。
……言うてD.L.A.Padはそんなに地味なタイプの音色でもありませんね。
鍵盤を1回押すだけで、キラキラした音が広い範囲にこだまして拡散する(遅延した音が鳴る)ような、そんな特徴を持つ独特の音色です。
D.L.A.Padは神主音色ではありますが、東方原曲での使用頻度は高くありません。
明確にそうと分かるのは紅魔郷タイトルの「赤より紅い夢」くらいで、東方原曲の中では影が薄いを通り越して非常にマニアックな部類に入る音色です。
なぜそんなマイナー音色が、かの有名なReed Romanceすら差し置いて、東方かざねいろの6ボスなのでしょう?
それはSD-90という機材におけるD.L.A.Padの立ち位置に理由があります。
SD-90には、各神主音色を含む音色セット(Nativeモード)以外にも、神主音色を含まない音色セット(GM2モードやGSモード)が存在します。
各神主音色を鳴らそうと思ったら、何よりも先に、SD-90本体のモードをNativeモードに設定しなければなりません。
SD-90をNativeモードに切り替えて初期化した上で、音色を指定するための値(LSBやMSBやPCなど)をいっさい入力しないまま音を鳴らそうとすると……
Nativeモードの音色セットの一番最初に存在する、デフォルトの音色が鳴ります。
そのデフォルトの音色として設定されているのがD.L.A.Padなのです。
D.L.A.Padの上記性質から、わたしは風音道楽に「自分自身に色をつけることでさまざまな別の音色を生み出すことができる、無色透明に近い音色」という設定を与えました。
SD-90に内蔵されたどの神主音色を鳴らしたい時であっても「デフォルト音色としてD.L.A.Padが読み込まれたところに、LSBやMSBやPCを入力して音色を指定する」という工程が必ず行われます。
彼女自身が東方原曲や東方風音楽に登場することは多くありません。
しかし、彼女は多くの東方原曲や東方風音楽の後ろで、いつも静かに佇んでいるのです。
SD-90のNativeモードを使って曲を作る人間なら、D.L.A.Padを曲作りに使ったことがない者はいても、存在を知らない者はまずいません。
SD-90の設定を間違えて爆音でD.L.A.Padを鳴らしてしまったみたいな経験、SD-90を使ってればみんなあると思います。
そんな彼女にスポットライトを当てたくて、わたしは風音道楽を6面ボスにしました。
ちなみに、6面道中曲と6面ボス曲は、曲の骨組みを作るドラムとベース、そしてメルランを表すRomantic Tp以外、全て「1~6面のボスとして登場したSD-90の音色」(Oct.JP Saw/St.Harpsichd/MG Saw Lead/OB Square/Hybrid Saw/Reed Romance/D.L.A.Pad)を使って制作されています。
……というのは建前で、本当はサポート役としてSt.Piano 1もいます(小声
それにしても正直めちゃくちゃ偏ってるし無茶振りな音色構成なのでかなり頑張りました。なんでSaw Leadが3つあるんだよ
単曲動画では楽器ごとに音符をキャラの色で色分けしているので、より分かりやすいと思います。
響風「遅延的な空間系パッド」
「無色透明の音色」
効果音がないためわかりにくいですが、どちらのスペルもD.L.A.Padを1音鳴らした時の「デデデン!デン!」というキラキラ音のこだまのリズムに合わせて弾幕が展開します。
エンディングについて
基本的には作中で描かれる通りのエンディングです。
エンディングは曲の骨組みを作るドラムとベース、メルランを表すRomantic Tp、1~6面のボスとして登場したSD-90の音色(Oct.JP Saw/St.Harpsichd/MG Saw Lead/OB Square/Hybrid Saw/Reed Romance/D.L.A.Pad)に加え、ルナサを表す音色としてViolin 2 vib、リリカを表す音色としてSt.Piano 1を使用しました。
みんなでワチャワチャとリハーサルしている感じが出ていたら楽しいです。
エンディング曲の最初の音を長く伸ばすやつは、オーケストラの音合わせ(チューニング)を参考にして書いています。
それ以降はほぼ全編「東方でよくあるいつものアレ」をひたすら変形させて書いていきました。
スタッフロールについて
基本的にはただのスタッフロールです。
「作品全体のテーマ」のところで述べた通り、キャンバス地に虹が描かれているのが東方かざねいろとして象徴的ですね。
各面担当作曲者のクレジットとキャラの立ち絵が表示される部分では、実際にキャラとして擬人化された音色が主旋律になって、該当キャラのテーマ曲のメロディを奏でるように曲を作っています。
D.L.A.Padだけ主旋律っぽくなれてなくておもしろい
一番最後にExtra面のクレジットをしながら出てくるピアノの音だけ、SD-90の音色ではありません。
この物語で初めて出てくる「SD-90でも神主音色でも神主音源でもない音色」です。
じゃあ、それが何の音源の音色なのかと言うと……
Extra面について
EX面のロケーションは1面と同じです。
中ボスとしてオクタヴィアが出てくるのも、1面と同じ場所だからです。
風の色だけまともになりました。
EXボス、音文字直魅です。
キャラクターデザインは古明地かなでさんと或兎さんのお二人です。
フリーで配布されているサウンドフォント「SGM-V2.01」の擬人化です。
SGMなのでSuGuMiです。
サウンドフォントとは、誤解を覚悟でものすごく簡単に言うと、個人レベルでも作ることのできるような音源の一形態です。
フリーで配布されているものも多いですが、そのクオリティは玉石混交に尽きます。
一般的なメーカー品の音源に比べると、さすがに操作性や音質で負けますが、普通に聞く分には見劣りしない音色を誇るフリーサウンドフォントも多いです。
もちろん「あーこりゃ質がぜんぜんダメだわ」っていうものもたくさんありますし、「これ有償の某音源のパクりじゃね?」みたいな、存在自体が際どいものも少なからず存在します。
良くも悪くも玉石混交です。
SGM-V2.01はそんなフリーサウンドフォントの中でも、広く高い評価を得ているオールラウンダーです。
かのUndertaleの楽曲でも使われていたとかいないとか。
耳コピ動画などでも高い頻度で耳にすることでしょう。
収録している音色は217種類にも上り、これだけでも十二分に曲が作れます。
(STG画面右枠の最高音色数217は収録音色数に由来します)
(ちなみに、EXボスはこれまでのボスとは違い、音色ではなく音源なので、それ以外の数値に意味はありません)
ファンメイドの東方風音楽の世界でも、SGM-V2.01は時々登場します。
とはいえ、東方風音楽作者の多くは「(SD-90をはじめとした)神主音源を集めて曲が作りたい」方が大多数だと思われますので、SGM-V2.01という「神主音源ではなく、それも有償音源に比べてかなり機能が限られた音源で」東方風音楽を作る方は多くありません。
そんなSGM-V2.01を主軸にした限られた環境で、精力的に東方風音楽を作っている方として著名なのが、EX面楽曲担当の或兎さんだと思います。
SD-90を題材にした東方風自作曲アルバムを作ると決めた時、わたしにはすでに「神主音源以外の環境で作られる東方風音楽にもスポットライトを当てたい」という思いがありました。
そのため、参加者の中で真っ先に協力を仰いだのが「SD-90を使った東方風自作曲を作らない」同氏だったと記憶しています。
おかげさまで、EX面ではSGM-V2.01だけで(神主音源をいっさい使用せずに)素晴らしい東方風自作曲を書いて頂きました。
直魅がフリーランスなのは「フリーのサウンドフォントだから」です。
SD-90のようなメーカー品の有償音源を「会社」と位置づけるなら、有志の作成・配布したサウンドフォントはフリーランスと表現しても不自然ではないでしょう。
サウンドフォントは基本的にそのファイル単体では演奏ができず(音楽制作ソフトにつなげることができず)ドライバと呼ばれる専門のソフトによる中継を挟む必要があります。
また、ドライバによって操作性や音質が変わってしまうことも多いです。
わたしが昔使っていたドライバでは、実際にサウンドフォントに一部パラメータが反映されませんでした(ピッチベンドとか)。
「スタジオ・キャンバスに似せた紛い物の風」
EXボスにありがち耐久スペル。
1~6面ボスの弾幕と形状が似ているようでいて、まったく性質の違う弾幕です。
完全覚えゲー
音文字「フリー音源の本気」
白黒のありふれた弾幕のようでいて、画面下部に到達すると色がつき、挙動が変わります。
しかし、自機よりも後ろで色づくため、鮮やかな色がメルラン(=リスナー)の目に入ることはありません。
どんなに高い技術の凝らされた色鮮やかな音楽であっても「フリーサウンドフォントだから、どうせ安っぽいんだろう」という印象が先行してしまえば、リスナーは容易に本来の美しさを見失い、無彩色と決めつけて価値のないものとしがちです。
先入観にとらわれずに、美しいものを「美しい」と感じる感覚、失わずにいたいですね。