「東方菓香国 ~ Sweet Smells and Foolish Evils.」設定資料集
はじめに
この記事は東方原作STG風シナリオ付き東方風自作曲アルバム「東方菓香国 ~ Sweet Smells and Foolish Evils.」の作品テーマや各キャラクターの元ネタ・名前の由来・デザインの意図・設定画などをまとめた設定資料です。
イラスト担当の林檎ノスケさんが描いてくれた設定画(ZUN絵風ではない)も掲載されていますよ。
「東方菓香国」の動画本編を観ていない方には恐ろしいネタバレになります。まず動画をご覧になってからお読みくださいませ。
また、この記事には犯罪行為などの外界の非常識を推奨する意図はありません。
ありませんが、一部上記のような非常識を連想させる題材が元ネタとなっているキャラクターがいます。
ブログを置いているレンタルサーバー屋さんに迷惑をかけたくないので、記事内では明確な元ネタの単語は出しておりません。
気になる方は自力で深読みして頂けますと幸いです。
作品全体のテーマ
一番最初にアイデアが湧いたのは2019年頃だったと記憶しています。
「お菓子の国を題材にした東方原作風アルバムがあっても面白いのではないか」と思いつき、まずは「お菓子の国」ということで「くるみ割り人形」(チャイコフスキーのバレエ音楽もしくはその原作であるホフマンの童話)を題材に物語を考え始めました。
しかし、ただ童話を題材にしたふわふわで甘いだけの異変では(書いているわたしが)いまいち面白くありません。
書きながら「お菓子に見えるものは実は幻で、その正体はとんでもないもので……」みたいな話にしてはどうか、と思いつきました。
「人にふわふわで甘い幻を見せるとんでもないもの」として、最初に思い至ったのが6面ボスの題材です。
その後は筆がのり「くるみ割り人形をベースにしたふわふわで甘いお菓子の国を、とんでもない方向に寄せていく」というイメージで話を広げていきました。
6面ボスの題材を決めた後、その題材についてわたしなりに色々調べていたところ、行き着いたのが「とんでもないものに依存して犯罪行為をしてしまう人びとは、その多くが社会で深刻な困りごとを抱えている」という事実でした。
誰がしたことであっても犯罪行為は許されません。
しかし困っている人びとにつけ込み、とんでもないものに依存させて犯罪行為に走らせ、いいように操ろうとする存在こそ……甘い香りの裏に潜む、巨大で愚かな悪なのでしょう。
3~6面ボスは「くるみ割り人形」などの童話をベースにしつつ、社会のままならなさと愚かな悪への怒りを込め、キャラ造形しています。
自機たち

おおむね林檎ノスケさんによるデザインなのですが、なんとわたしは魔理沙のデザインの元ネタになった玩具菓子を知りませんでした。
有名なお菓子らしくてびっくりしています。
幼少期を過ごした地域の問題……?
1面ボス「大黒 二六二」

名前
大黒 二六二
元ネタと名前の由来
アリです。名前からしてクロオオアリなのでしょう。
お菓子にたかりそうな虫であることは言うまでもありません。
また、6面ボスの題材が人間にもたらす症状の一つに「蟻走感」(formication)があり、彼女のテーマ曲「夢から覚めてフォーミケーション」の曲名の由来になっています。
名前の「二六二」と二つ名「よく働く二割のうちの一匹」は「働きアリの法則」が元ネタです。
働きアリは「よく働くアリ:時々サボるアリ:ずっとサボるアリ」の割合が2:6:2になっているそうです。
2面ボス「七頭 疵露子」

名前
七頭 疵露子
元ネタと名前の由来
ネズミです。
お菓子にたかりそうな動物であることは言うまでもありません。
後半面が「くるみ割り人形」を題材にしているということで、同作に登場する七つの頭を持つネズミの王様を意識したキャラにしています。
同時に、ネズミを使って6面ボスの題材の依存性について調査した実験「ラットパーク実験」とも関連させました。
そのため実験動物としての白ネズミを前に出しました。服装もそんな感じです。
普通の色のネズミだと原作のナズーリンと色々ダダかぶりしてしまうしネ。
しかしながら、キャラ造形がひととおりできた後に「くるみ割り人形のネズミの王様はラットじゃなくてマウスである」ということに気づき、悶絶しました。
日本人作者故のミスとしてお見逃しください。
3面ボス「錫器 燃」

名前
錫器 燃
元ネタと名前の由来
アンデルセンの童話「しっかり者のすずの兵隊」の主人公の錫の兵隊をベースにしています。
一方で日本人名ですし、そもそも溶けて消えていませんし、決して元ネタの童話に登場した兵隊と同一人物っていうわけではないのでしょう。
これは4面ボスにも同じことが言えます。
3面ボスと4面ボスは童話の登場人物を元ネタにしてはいますが、それとは別に「社会的に困っていたところに甘い悪から声をかけられ、甘い言葉やとんでもないものに依存させられ、犯罪行為に加担させられた人びと」という意味合いも持ちます。
燃が元ネタの童話と同じような出生と経歴なら、困りごとを抱えて社会(人間や幻想郷)に反感を持ち、6面ボスの甘言に乗って犯罪(正常な幻想郷の異変から逸脱した異変)に加担させられてしまったのも無理のないことでしょう。
4面ボス「ピルリパート・ドロッセルマイヤー」

名前
ピルリパート・ドロッセルマイヤー(愛称:ピルリィ)
元ネタと名前の由来
「くるみ割り人形」に登場するくるみ割り人形をベースにしています。
「ピルリパート」は元ネタ作中でくるみ割り人形(ドロッセルマイヤーおじさんの甥)が助けた姫の名前です。
作品形式によっては登場しないこともあります。
彼女も3面ボスと同じように、決して元ネタの童話に登場した人形と同一人物っていうわけではないのでしょう。
童話の登場人物が元ネタである一方で「社会的に困っていたところに甘い悪から声をかけられ、甘い言葉やとんでもないものに依存させられ、犯罪行為に加担させられた人びと」という一面を持つのも3面ボスと一緒です。
彼女の顔の包帯の下には壊された時の傷痕があります。
彼女はその傷と生まれながらの目立つ前歯のせいで、自分を「醜い人形」だと思い続けています。
本当に醜いのは誰なのでしょうか。
5面ボス「クララマリー(倉良 毬子)」


名前
倉良 毬子(自称:クララマリー)
元ネタと名前の由来
「くるみ割り人形」の主人公をベースにしています。
作品形式によって名前がクララだったりマリーだったりします。
日本人名の本名からも分かるように、元ネタの童話に登場した人物と同一人物ではありません。
幻想郷において弱い立場にある人間の中でもさらに弱い立場にあるモブ里人、その中でも特に弱い立場にある少女です。
人間(特に里の人間)が幻想郷の妖怪にとって必要不可欠な存在だというのは、東方原作ファンなら皆さまご存じのことと思います。
ゆえに賢明な妖怪なら人間を襲うにしてもそれなりに気をつけて襲うし、人間の里に勢力を広げる時には他の妖怪とのパワーバランスを気にするものです。
では、幻想郷のその「暗黙の法律」とも呼ぶべきものを何も気にしない妖怪が、弱い人間の中でも最も弱い存在に、卑劣なやり口で手を出したらどうなるでしょう。
そのような幻想郷全体をおびやかしかねない愚かな悪は、当然、裁かれて然るべきです。
6面ボス「香火煙 罌粟花」

名前
香火煙 罌粟花
元ネタと名前の由来
言うまでもありませんから言いません。
花の妖怪のようでいて、実態としては花に取り憑いた霊です。
恨みで動くのが東方原作における怨霊だとすれば、赤い花に取り憑いて香火煙罌粟花を生み出した霊は、悪意で動いているのでしょう。
いや、本人はそれが悪意だとは思ってないかも。
弱い他人をいいようにして自分が良い思いをするのは、ごく当たり前のことだと思っているんでしょうね。
彼女の元ネタの花自体は使い方によっては悪いものと言い切れません。
それを使って弱い他人をいいようにして自分が良い思いをするのが悪なのだと、わたしは思います。
EX面ボス「絹成門 朱華」

名前
絹成門 朱華
元ネタと名前の由来
「あの『一人一種族の妖怪』にもし同じ種族の存在がいたら」というイメージで造形したキャラです。
東方菓香国の動画を最後まで観るような東方原作ファンなら、誰のことを言っているかはお分かりかと思います。
わたしは例の妖怪を「論理演算の妖怪」とか「システムの妖怪」「プログラミングの妖怪」と解釈しているので、朱華もそういう感じです。
例の妖怪に限らず「一人一種族の妖怪」に同じ種族のキャラがもしいたらどんなヤツだろうな……と想像するのが好きです。
名前の命名法則も例の妖怪に合わせてあるつもりです。
姓の元ネタについてはExtraステージのスコアの値から深読みしてください。
定義を操る妖怪ということで、衣装などのデザインは「顧客が本当に必要だったもの」の風刺画や、システム開発用語を元にしています。
大きな木の枝からぶら下がる輪っかのほか、ウォーターフォールということで流水紋です。
罌粟花のように幻想郷の「暗黙の法律」をないがしろにする妖怪がいたならば、朱華みたいなヤツに何をされても文句は言えないと思います。
逆に、朱華みたいなヤツが許容する形でなら、罌粟花の元になった花も幻想郷に存在することは許されるのではないか、とも思っています。
実は2019年発表のミニアルバム「雛鳥曼然樂」のブックレットにも朱華が登場していたことにお気づきでしょうか。
雛鳥曼然樂の頃から、弊サークル内では「ねずっち」という愛称で呼ばれています。